このコーナーは『ターラの夢見た家族生活』をご支援いただいた方から届いたメッセージと安發のお返事を紹介しています。日本の福祉現場の状況と、フランスの福祉から得られるのではないかという見識の接点を紹介します。
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私が毎月施設を退所した子たちへLINEをしてます。「元気かな?」「コロナはどうかな?」とか「桜が咲いたよ?」とか、季節のことなどを織り交ぜてメッセージを送ります。 そんな中で、昨晩、数年前に退所した中学2年からのお返事でした。
A『あのね、学園にもどりたいよ』
私『何かあったの?誰かに相談できてるの?保健室の先生とか?なんとなく、Aちゃんの苦しそうな感じは伝わってきますよ。誰かいるといいんだけど』
A『あんまり、いない。言ってもあんまり変わらないし、話しにくい。ママがよくわからなくて。Aと彼氏さんとどっちが大事なんだか?冬休みも警察沙汰になってるんだよ。しかもこっちの気持ちもちゃんと言ってるのに平気で彼氏に会ったり、嘘ついて家に帰ってこなくて。少し話聞いてくれてありがとう』
私からは、児童相談所のケースワーカーさんに繋げられたらと思いましたが、Aちゃんに伝えても返事がありません。Aちゃんは引っ越して管轄の児童相談所も施設のときとは変わってしまいました。こんなメッセージのやり取りだけで、私にはこれ以上のことができない立場にいます。このようなSOSがあった場合、なんとかその子が学校の先生等に相談するように仕向けます。これが日本です。
後日
A『心理士の人にたまに話したりするけど、そうすると施設の話が出てきたりするよ。でも 今からまた新しく誰かと関係持っていかないといけないのは嫌 だし、まだ13年しか生きてないけど(笑)、今までで1番楽しかったのは学園にいた時だと思ってるからさ、他のとこに行きたくないんだよね。』
私『学園をそんな風に思ってくれてありがとう。』
A『難しいよね。こんなこと言ってごめん笑』
子どもが守られなくてはなりません。 しかし、今も子どもたちは苦しんでいるのではないかと。Aちゃんは、今日はどうだったのか?今、この時を一生懸命生きていると思いますが、なにもできないことが切ないです。
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安發お返事
親がいても、学校にいても孤独な子どもたちに、やはり親でも学校でもない児童保護の専門職がいて家庭のことをなんでも話せたらと思います。虐待で悪いのは子どもではありません。親へのケアが十分ではないことです。なので親のケアをしなければ子どもを家に戻せばまた同じ脆さを抱えたままの環境です。心配な状況があったらまず親をケアする。施設か家の二者択一ではなく、必要に応じて1泊から施設などに泊まれ、その間に集中的に親との関係の調整ができるようにする。子どもが「ここに住みたい」と思える場所なのか施設や里親に会いに行って決められることも大事だと思います。せっかく関係性が築けたのであれば県外の施設に戻っても良いのではないでしょうか。子どもの教育と福祉とケアが一番尊重される方法を子どもと一緒に探せたら良いのに。
日本でも何人も同じような女の子に会いました。女の子と連絡がとれなくなったあと、男性宅を転々とする仕事をしたり中学生でキャバクラで働いているという話も聞きました。対応できなかったばかりに、子どもが教育を受ける機会も福祉もケアの機会も、なんと公的機関が奪っていました。今でも子どもが「他に方法ないの?」と言っていた顔が浮かびます。
フランスが好きな理由は必ず解決策を探し出すことです。ベストではなく、「最悪ではない」方法しかないということがあったとしても。けれど必ず何かいい方法を見つけ出し状況が良くなっていくのを見届けることができることが、子どもだけでなく専門職にとっても社会にとっても救いになっているのではないかとも思います。
フランスのエデュケーター国家資格は国の規定で「エデュケーターの職業的姿勢は感情移入、傾聴と親身さを土台とする。相手に合わせるということは相手が必要なときに時間とエネルギーを割くことができるということである」と定めています。このような子どもがいたら家庭を支援できる立場の機関の職員が子どもにとって安心して成長できる場所が見つかるまで見届けてほしいです。日本でもおこなわれている在宅支援、よりよいあり方について話す機会が増えることを願っています。
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『ターラの夢見た家族生活』はフランスの支援者たちの動き、家族との関わりを具体的に知ることができる本です、是非出版実現のご支援お願い申し上げます。