児童養護施設施設長からのお便り

児童養護施設施設長からのお便り

このコーナーは『ターラの夢見た家族生活』をご支援いただいた方から届いたメッセージと安發のお返事を紹介しています。日本の福祉現場の状況と、フランスの福祉から得られるのではないかという見識の接点を紹介します。

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児童養護施設施設長Tさんからのお便り

児童養護施設に勤めています。4歳から18歳の子どもたちが35人施設で生活しています。 児童福祉法の改正で、児童養護施設も小規模化、家庭的養育と言われ、ユニット化しました。1つのユニットに6人定員で、職員は交代制勤務で子どもたちの支援をしています。 お伝えしたいことはたくさんありますが、 子どもたちが満足できる生活とはなにか? 職員が疲弊しないで、子どもたちの支援にあたるためにはどうしたらよいか。

なぜ親元を離れて施設で生活をしているのでしょうか。子どもたちは家庭の中でしっかりしたルールを教わらずに成長してきています。そしてその上で満たされていないのです。何をやっても不満を持った生活となってしまっているのです。 そのため、施設の中で、職員に対して、「うるさい!」「そんなのイヤ」「私のことをわかってくれない」と反抗的となります。その子の背景を考えながら職員は時間をかけて、子どもの気持ちを汲んで子どものことばを受け止めて、説明を繰り返しています。 施設の中で、見本となる子どもがいないところで、子どもたちは自分の悩みを際限なく職員にぶつけてくるため、職員は必死に受け止めていますが、虐待を理由として入所している子は、職員の気持ちを逆撫でしたり、わざと怒らせたりしてしまいます。虐待を理由とする子どもたちの特徴です。若い職員は、相当メンタル的に落ちています。 子どもも素直になり、相手の気持ちを受け止めて、落ち着いて相手との関係を保てるようにするための支援に苦慮してます。ユニットとなり職員が責任を持たされすぎてしまってます。

安發からのお返事

フランスにおいて在宅支援は戦後からおこなわれてきましたが、特に2007年からは「予防」の在宅支援を中心とし、子どもがそもそも被害に遭わないようにするようにしています。

都内では子どもが施設措置されると1人あたり1年で1000万円、地方でも500万円かかると言われています。一方フランスの在宅支援は国家資格を持ったエデュケーターが週一回家族全員に働きかけしても月6万円ほどです。

フランスは分離することは親子にとってデメリットも大きいことから、親子分離は危険がある状態のときに限り原則半年から1年の短期措置しかしないことになっています。もちろん親の精神疾患など状況が許さない場合は延長されます。そもそも子どもが調子を崩すような環境を放置しない、子どもにとって頼れる大人である専門職をおくようにします。子どもにとっては初めて自分の話をしっかり聞いてくれ、自分の価値を認めてくれる人であることもあります。

以下の図はフランスのダニエル・ルソーという小児精神科医が施設措置された子どもたちを20年間に渡り継続調査し発表しているものです。一度被害に遭うととても大きな影響を先々まで残すことを示しています。他にも様々な研究がされていますが、一致しているのは、一度未成年のとき被害者になると1/4は継続的なケアにも関わらず成人後も良い経過に至らず後遺症を抱えているという点です。

図:ダニエル・ルソー小児精神科医、翻訳:安發

全ての子どもが幸せな子ども時代を過ごすことは、より良い社会を築くために重要であり、そのために、支えが必要な時期はしっかり家庭を支えることがもっと重視されてほしいと考えています。

『ターラの夢見た家族生活』は具体的に家族まるごとどのような支えになれるのか、子どもにとって何が力になるのかイメージを刺激してくれるはずです。