夜回り先生がパリには284人

夜回り先生がパリには284人

道のエデュケーター

首都圏の生活保護担当をしているとき、母子家庭が多かったのだが、子どもたちは学校につながっていないことの方が多かった。学校に連絡しても「学校に来ている子どもたちの対応で手一杯なので、福祉事務所が繋がっているのでしたら、そちらで対応してください、家庭訪問しても出てこないので学校は何もできません」という反応、警察からも「学校も行かないでずっとコンビニの前や駅でたまってるけどなんとかなりませんか」と電話が来たが、たまに路上で見つけて声をかけても提案できる活動は多くなかった。不登校支援学校の選択肢も多くなく、非行傾向にある若者にとって魅力的な活動内容ではなかった。そんな中、毎年何件も中学生の中絶手術の費用を負担する手続きをしたり、実際14歳で産む子どもの出産の手続きをしていた。男子については、15歳-18歳のこれまで学校に行っていなかった若者を何につなげればいいのか途方に暮れた。日本では学校に繋がっていない若者を支援する仕組みが十分ではない。

フランスの「道のエデュケーター」は、特別その職業に就きたいと憧れる若者もいる、地域の若者のリーダーのような存在でもある職業だ。

パリ市が年間予算22億円を割いている道のエデュケーター(éducateur de rue注1)は特別予防活動(Prévention spécialisée)をおこなっている専門職のことである。具体的には、日本の「夜回り先生」のように路上や公園で若者達に声をかけ、関係性を築き、支援するのだが、組織化されている。

道のエデュケーターの活動は19世紀からおこなわれていて、非行、犯罪予防が主な目的だったが、第二次世界大戦直後から政府の予防活動に組み込まれ、現在のスタイルは1986年の社会福祉家族法で定められている。児童福祉のミッションを担い、児童保護の目的として現在では行われているという枠組みになっている。

ただし、組織としての独立性と、活動家たちによる支援というスタイルは歴史的な背景を維持しており、パリ市では全て民間アソシエーションによる運営、 若者達は匿名性を保障されている。それゆえ、福祉事務所など公的機関のソーシャルワーカーより気軽に悩み相談をすることができる。

元はボランティア、学校の教員、福祉事務所職員、地域の活動家たちが連携しておこなっていたことを組織化してエデュケーターがメインで各機関と連携し、主に12歳から21歳までの、地域にいる若者グループ、 不登校や早期退学してしまった若者、家族や教育機関と良い関係にない若者などとの関係を築き、支援につなげる。社会活動への参加へと導き、責任ある自立した大人になるよう支える。他のアソシエーションと連携して若者自身だけでなく家族の支援へもつなげる。

パリ市では、市との取り決めにより定めた特に支援が必要とされる地域に配備されている。

パリ市ホームページより

パリ市では12のアソシエーションの284人のエデュケーターが活動している。

事務所につめているのではなく、地域内で、主に公園にたまっている若者、中学校の出入り口付近での声かけなどをおこなっている。

「文化、社会、スポーツ」につなげることがまずは活動の柱になる。スポーツジムや体育館でイベントをするから来ないか誘ったり、料理教室など文化的な活動への参加、医療面では健康保険への加入の仕方を教える講座の開催、医療にかかる支援、予防接種を受けることについての支援、そして、例えば自動車・バイク教習を受けるよう誘い、その講習の過程を心理士やエデュケーターで継続して支えることで関係性を築き、就労支援にもつなげる。

16-21歳についてはバイトに誘うこともしている。不登校、職業安定所で仕事が見つからないかうまく参加できなかった、仲間と距離を置きたいけれど言い訳が見つからない、 ライフスタイルを変えたい、職業訓練から離脱してそのままになっている若者にとても有効とされている。引っ越し、内装、ペンキ塗り、修理、清掃、庭の管理などのアルバイトへと誘い、その仕事を専門としている人とエデュケーターの2人が一緒に仕事をし、職業の道へとつなげる。

ニュース記事より

宿泊施設もあり、夜間外にいる若者がいたら、宿泊させ、ゆっくり事情を聞くことができるシェルターとしての役割も果たしている。短期での利用も、アパート1人暮らしの練習も、その後のフォローもしている。「一緒に生き、一緒にする」ことがモットーで宿泊施設には常時エデュケーターがいて生活全般を支える。

各アソシエーションが独自のスタイルを提案しているが、若者が自ら望んで福祉事務所や職業安定所に足を運ばなくても、どのような若者も取りこぼさずに様々な支援があることを提案し、つなげていくことができる。若者にとっては、どんな相談もすることができる地域の先輩のような存在であり、それらをフランスでは公式に提供することができているのだ。


注1 エデュケーター資格は3年間の教育・対人援助技術の習得、実習で得られる資格。0歳から21歳を対象とする児童福祉、障害者福祉、母子やアルコール依存などを対象とした支援について学ぶ。