パリ市の400人のソーシャルワーカーと1500人の市民ボランティアが市内の全ての道、駅や駐車場などをくまなく歩き、その日路上で寝ている人の数を数え、状況の聞き取りをする「連帯の夜」。
3年目である2020年1月30日当日は19時に参加する区の区役所に集合し、自分の担当区域のチームに配属される。ソーシャルワーカーや経験者であるリーダー1人に市民ボランティア3人ほどのチームである。
私はリーダーが30年前から区の様々な活動に参加している区のことをくまなく知っているという50代男性、女性30代弁護士、女性20代学生は政治関係と環境関係をテーマとしているということだった。事前に登録すれば未成年を連れて来ることもできる。
22時から1時までは何かあった際は市の保険でカバーされているので、その間に調査活動を終える必要がある。19時から21時前までは全体で研修を受け、21時から出発までは、どのように道を回るかチームごとの打ち合わせをした。
必要な人は区役所に心理士が待機しているので、見聞きしたことや感じたことを心理士に話しに戻って来ることもできるということだった。
研修は、路上生活者の現状と問題になっていること、調査の目的、方法論、統計の取り方、倫理的な注意事項などである。
特に、慣れていない人はホームレスを見た目で判断することが多いので気をつけるようにという指摘があったが、実際この夜出会ったホームレスのうち2人はこざっぱりとした一般と変わらない身なりをし、きれいなリュックを一つだけ持っているといういでたちだった。 私の担当地域は、普段はホームレスを2-3人見かける場所だが、一昨年の調査では5人、去年の調査ではゼロとなっている。調査者の識別する力によるところと、天候による部分も大きいように感じた(とても寒いと路上で寝るのは危険なので歩き続けたり夜間バスに乗っていることもあるし、雨の場合も普段とは違うところにいることが多い)。
自己紹介の仕方や調査の説明の仕方は渡される書類にも書いてある。リーダーたちは別に事前研修を受けてきている。
担当区の中の、担当地域の地図をもらい、この全ての道をくまなく歩くにはどのように回るか作戦を立てる。ホームレスが集中する中央通りを最初に歩くか、最後に歩くか話した末、眠る場所に戻る遅い時間に行けるよう最後に歩くことになった。その結果、すでに寝ていて話しかけられない方もいた。
リーダーは経験があるので、最近集めておいたという1ユーロ、2ユーロ(120円、240円相当)玉をたくさん持参していた。匿名、無報酬での質問だが、調査に答えたお礼に何かもらえると喜んでもらえることが多いためということだった。家にあった食べ物以外持ってきていなかった他のメンバーは、研修で配られる夜食キットを質問に答えた人に渡した。
22時に調査を開始できるよう21時40分に出発し、歩いて現地に向かう。途中の道でもたくさんのホームレスに出会ったが、他の人の担当地域なので声はかけない。
普段住宅地を夜歩き回ることはないので、いつもと違った風景に見える。
最初に心当たりにある場所に行くと、1人横になっていたが、目が合ったので話しかける。スーパーの入り口付近にいた。
50代男性。「6年前に病気で仕事を失い、路上生活に入った。施設に行ったこともあるが、400人もいるような巨大な施設で朝起きるとバッグどころか靴もなくなっていたのでもう二度と行かない」
次にバス停で2人話す40代後半の男性は、バスを待つ様子ではなかったので声をかけると二人ともホームレスだった。きれいな身なりをし、きれいなリュックを一つずつ持っている。
「市の公務員として市の建物の屋根の上の修理の仕事をしていたが、落ちて足が悪くなったことを理由に退職を迫られた。15年前に路上に来てからは、二度ピレネー山脈にある療養施設でアルコールのない生活を2ヶ月送るが、その時はよくても、パリに戻ると路上に戻るためまた飲んでしまう。6年前からはもうどこの短期施設にも入っていない」
もう1人は自分のことを話すことが好きではないということだったので、観察事項のみ記録した。
もう1人ゴミ箱の中身を見ている人がいたので声をかけたが「違う通りで他の人にもう調査受けた」ということだったので、数えなかった。
そして、最後に見つけた人は警察署の近くにいた。もう24時をまわっていて寝ていたので声をかけず観察事項を記録した。
4人という結果だった。ボランティアはこれで解散、リーダーは区役所に戻り調査票を提出する。
身近に暮らすホームレスのことをよりよく知る、手を差し伸べやすくなる、彼らの置かれている状況についてより関心を持つ、様々な取り組みをしている団体を知り今後参加しやすくなる機会であった。