フランスはなぜ子育て政策に力を入れるのか?
日本で社会的養護の子どもは未成年人口の0.2%、それに対しフランスでは2%もの子どもが対象です。それはフランスで虐待が10倍多いわけではなく、「心配」を基準にすることによって虐待という極端な状況をそもそも防ぐことを目的としているからです。さらに保健省は成人の12%もが未成年のとき継続的な暴力の被害を経験しているとしており、そもそも誰も暴力の被害を経験しないように、経験した子どもは早期にケアを受け良い成長を保障できるように全ての子どもの育ちを守るため学校など子どもの通う機関に子どもの福祉の専門職を配置しています。目的を全ての子どもの教育と福祉とケアが守られることとしています。
日本でもフランスでも福祉の構造は大体同じです。ここでテーマとしている在宅教育支援は日本では市町村子ども家庭支援拠点が担っています。なので新しい仕組みや専門職を提案しているのではありません。同じようにあるものを、あるだけでなく行き届かせること、全ての子どもが幸せに育てるよう制度を生かせるように呼びかけたいというのがこの企画の一つの理由です。
フランスで実施されたSaint-Exという研究(2018)では、4歳までに危険な目に遭い保護された子どもを22年間追跡調査した結果、その後継続的なケアをしても1/4もの子どもは成人しても安定した生活をすることができておらず社会保障に頼る必要がある状況であることがわかっています。これはそれまでに実施されたいくつもの追跡調査と一致しています。1/4は良い経過をたどり、1/2は不安定でありながらも社会保障を頼らない状況、1/4はまだまだケアが足りず社会保障に頼る状況です。虐待が起きてからではその影響はかなり先まで及ぶということです。
保健省の社会問題観察機関IGASによると親を支援することは、子どもが社会的養護が必要になることに比べ9千分の1のコストで済むとしています。パリ市での調査によると、児童相談所によるフォローが必要になると,平均的な支援期間で計算すると在宅教育支援で子ども1人あたり約67万円,施設(里親)入所になると1人平均約2700万円かかります。在宅教育支援は月5時間5万4000円で家族全員に関わることができるのに対し,保護の場合子ども一人あたり月70万円,さらに心理ケアなど治療費や親への支援も別にかかり、長期に渡り保護する必要がある子どももいるからです。
それゆえ、経済的な理由も含め、保健省は「親をすることへの支援デスク」をおき、「親をすることは,親としての機能の物理面,心理面,精神面,文化面,社会面といったさまざまな側面を結び生かすプロセスである.どのような家族構造の中においても,子どものケアと成長と教育を保障するために,大人と子どもの関係性に働きかける」としています。「親を支えることで子どもの不登校,精神的な問題,行動障害,注意力不足,暴力,リスクを伴う性行動を防げることが実証されている」 とも報告書に書いています(保健省 2018)。
法律上は社会福祉家族法 CASF Art. L.112-3「親への働きかけをおこなうことの法律」は「家族の持つ資源と子どもの置かれた環境についてまず働きかけをおこなう.親が直面している困難を理解すること,そして状況に適した安心して利用できる支援を紹介すること,紹介だけでなく実行し親が教育的責任を全うできるよう支える」と定めています。
これらの背景が、スクールソーシャルワーカーなどの専門職に費用を割くこと、在宅教育支援で専門職が家庭に定期的に通うことの有効性として共有されています。在宅教育支援が一定時点に支援している子どもは未成年人口の1%ですが、3年以内に終了することが多いので、未成年のうちに経験した子どもは3-5%いると言われています。
パリ市の統計では6-16歳の10%が学校のソーシャルワーカーの継続的支援を受けています(OPPE 2021).また法律で,健康面での不平等をなくすべく,身体面だけでなく,知覚神経,心理面愛情面,神経発達面,言語面での教育省に所属する医師による学校への巡回診察も行うように定めている.さらに,診察だけでなく,学校は教育省に所属する医師と連携して,診察結果適当とされている治療やケアを実現することを求めています(教育法541-1)
不登校についてはどうでしょうか。フランスでは月2日以上の医師の証明のない欠席から県の担当部署に報告し家族も含め対応することになっています。教育省のホームページには学校システムからの早期退出は「高校卒業資格または国が定めた職業資格を得ずに社会に出た者」という定義なのですが、学校システムからの早期退出について(中学校、高校卒業資格をとるのは難しいので日本との違いがあるものの)「⻑期失業、低給料で不安定な就労、健康面、自尊心の低さ、人生の QOL の低さ」のリスクを高めるとしています。本人たちの才能の価値を引き出さないことは社会的な損失であり社会の調和を揺るがすものであるため「現在に投資し、未来のコストを削減する。社会の調和を守る」ための予算が必要と記述されています。学校システムからの早期退出者の国にとっての損失は週 2865 億円(2,3milliards euro)、1 人あたり生涯平均 2740 万円から 2860 万円(220 000-230000euros)社会扶助費がかかる。全体で 1540 億ユーロ(154 milliards dʼeuro)の社会的コストである。それを、5 年間で学校システムからの早期退出者を半数にすることができれば、この半額ものコストを減らすことができるとして専門職による支援の正当性を説明しています。
日本においても、子どもが虐待を経験せず、より良い環境で育つことは経済面以外でもプラスがあると言えないでしょうか。例えば少年院での統計では、家庭内で虐待経験 がある子どもは79.6%、 家族以外の第三者からの暴力等の被害経験は60.1%、第三者からの性的被害経験は男子17.7%、女子61.4%。少年院入所者は被害当時してほしかったこととして、「話を聞いてほしかった」32.1%、「相手を止めてほしかった」29.8%、「つらい体験をしていると気付いてほしかった」28.0%、「逃げられる場所がどこにあるのか教えてほしかった」21.1%、「自分の話を信じてほしかった」15.6%、「かくまってほしかった」15.6%と答えています。(羽間京子、2017、少年在院者の被虐待体験等の被害体験について、矯正教育研究62巻、日本矯正教育学会) 被害者であった子どもたちが大半であることがわかっています。
子どもが幸せに育つことは、より良い社会につながる、みなにとってプラスの働きかけなのです。
日本でも予防は養育支援訪問事業、児童家庭支援センター、市町村子ども家庭総合支援拠点が担っています。フランスの在宅支援、在宅教育支援と同じような役割をしています。ただし例えばパリ市に5つある在宅教育支援機関の1つで、140人のスタッフで1100人の未成年の支援をしていて、県から約10億円の予算を受け取り運営しています。規模も手厚さも大きいです。より良い家族の支えが実現していくためにフランスの支援の方法も一つの検討の視点を与えてくれるのではないかと思っています。フランスの元支援者が書いた本の日本語版出版にご協力お願いいたします。